星を観るには速すぎて



 今日の練習を終えたガウガストライクスのメンバー達は、キンタウルスの家に集まり何をするでもなくだらだらとしていた。一人の女性がリビングにやってくると、ギターの手入れをしていたキンタウルスがそちらに顔を向ける。
「ああ、お疲れ。なんだか悪いな、食器の片付けを任せてしまって……」
「いいえ。これくらいしか私にできることはないので……むしろ家事くらいはさせていただかないと」
「リーダー、だからって何から何までやってもらってたら一人じゃ何もできないダメミューモンになっちまうぜ、ケケケ」
「……確かに、その通りかもしれないが……」
 テレビを眺めながら二人の会話に茶々を入れるデーヤンにキンタウルスは真面目な顔で考えこむ。そんな彼を見て相変わらず変なところで真面目なヤツだと軽く息を吐いたデーヤンがテレビに視線を戻すと、ちょうどニュースが新しい話題に切り替わるところだった。その内容に先程の女性が嬉しそうな声をあげ、心なしか早歩きでテレビに近づきソファに座っているデーヤンの横に腰を下ろした。
「流星群ですか……!」
「みたいだな」
「<<なんだか今日は調子が良いなと思ったらそういうことだったんですねー>>」
「ウチュウラー、上ニ乗ルナ」
 ひょこりとダイシゼンの頭の上からから顔を覗かせたウチュウラーが楽しそうに画面を見つめる。ニュースで流れているこの話題が切り替わったら今すぐにでも外へ飛び出して行きそうなほど食い入るように画面を見つめる彼女に、デーヤンが何かを思いついたように口を開く。
「今から見に行くか、コレ。特別に俺の散歩に付きあわせてやってもいいぜ? ケケ」
「!!」
 勢いよく彼の方を向いた彼女の目は普段ではあまり見られない様な輝きを湛えていて、デーヤンはここまでかと若干驚いたように瞬きをしたが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。軽く伸びをしながら他のメンバーの方を向き、お前らはどうすると言葉を投げかける。
「行きたいのはやまやまだが、満月が近いからな……俺は大人しく待ってることにするよ」
「<<僕も今日はエネルギー使い果たしちゃったんでー、現代っ子らしくテレビ見てまーす>>」
「オレハ、下カラ眺メルコトニスル」
「おー。んじゃ適当に行ってくるぜ、ケケ」
 各々の返事に頷き、少し慌てるような素振りをする女性の手を取って外へと向かう。え、でも、と手を引かれながらデーヤンと他のメンバーの顔を交互に見やる彼女にキンタウルスは構わないから行って来いと言うように目元をゆるめ、ウチュウラーとダイシゼンも「<<いってらっしゃーい♪>>」「キヲツケテナ」と手を振りながら送り出した。

***


「な、なんか申し訳ないです」
「気にすんなって。俺は日課の散歩のついでだし、あいつらが来ないのは自分の意思だしな」
 姿を変えたデーヤンが歩きつつ空を見上げる。
「んじゃ飛ぶか」
 立ち止まりさらりとそう言い放った彼を女性は驚きに満ちた瞳で見つめる。見つめられている当の本人はにやりと口端を上げ何も言わないうちに彼女を抱き上げた。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってくださっ……!!」
「言ってなかったか? 俺の散歩って言ったら夜空を適当にぶらつくことだぜ、ケケッ」
 舌噛むなよ、と言うが早いか飛び上がった彼のシャツを悪いと思いつつぎゅっと握りしめる。彼は最高マッハ2の速さで飛べるのだという話を以前聞いた気がするのだが、散歩というからにはさすがにそこまでの速度は出さないだろう。そう推測し自分に言い聞かせてはみたが、地上はどんどん遠ざかっていくし速さは増している気がする。彼を見上げて「あの、」と口を開いたはいいものの、その声は風の音にかき消されてしまった。
 そんな声でもかろうじて届いたのか、彼の視線が彼女に向けられる。そうしているうちにも加速していくデーヤンに速度を緩めてもらえるよう頼もうと口を開く。しかしそんな彼女の目に入ったのは愉しげにつり上がった彼の口元で、そこでようやく彼女はデーヤンがわざと速度を出して自分の反応を見て面白がっているのだということに気が付いた。
 街の灯りはもうほとんど見えなくなってしまっているし、星なんて全て流れているように見える。抗議して早く止めさせたいが今の彼女にそんな余裕は残っておらず、ただただ彼の気が済むのを待つことしかできなかった。





2015.05.09
サイト掲載 2016.11.13



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