窓から差し込む光で目を覚ましたは、気怠さの残る体をゆっくりと起こした。かと思うと、外気に晒された肩を震わせてすぐにまたシーツに潜り込む。
「さむ……」
 手だけを外に出して寝巻を引き寄せ、冷えているそれを抱きしめるようにして温めてから身に纏う。珍しく未だ眠っているルキノを起こさぬようにベッドを抜け出して窓を覗いてみれば、外の景色は普段と違った表情を見せていた。
 それを目にしたは寒いわけだと頷き、通常なら自分よりも早く起きているはずの彼が目覚めていないことにも納得した。
 目覚めはしたが寒いしまだ眠い、と再びベッドに戻ったを、薄く目を開いたルキノが抱き寄せる。「おはようございます」とが口を開くと、彼も「……おはよう」と掠れた声を返した。
「……今日は、早起きなんですね」
「ルキノさんがいつもよりお寝坊さんなだけですよ」
 僅かに頬を膨らませたに、ルキノがくすりと笑みをこぼす。「それはすまない」と口にした彼はの額にそっとくちづけた。するりと脚に巻き付く尻尾の感触に口元がゆるみそうになるのを堪え、わざとらしい不満げな表情をそのままに彼女は「仕方ないですね」と言葉を発した。
 しかしそれも束の間で、すぐに我慢ができなくなったのか息を吐き出すようにしてが笑い出す。それにつられて、ルキノもまた小さく笑い声を上げた。
「ルキノさん、あのね、雪が降ってるの」
「あァ、道理で……」
 ちらりと窓に目をやったルキノが、憂うように息を吐いた。苦い顔をする彼を、は思った通りの反応だと見上げる。彼曰く、寒いと思考も身体の動きも鈍るらしい。以前『寒いのは苦手だ』と言っているのを耳にした記憶がある。
「ねぇルキノさん。私、もう少しだけこうしていたいです」
 ルキノの胸板に頬を擦り寄せる彼女に視線を向け、彼は柔らかく目を細める。
「……私も、キミの意見に賛成だ」
 背中に回っている腕の力が僅かに強まるのを感じ、は幸せそうに頬をゆるめた。顔を上げてしばらくルキノを見つめてから目を閉じると、彼の吐き出した息で空気が揺れた。
 小さく笑った彼が優しく彼女の唇に自分のそれを重ねる。音も立たない触れ合うだけのくちづけを数回繰り返したあと、見つめ合った二人はどちらからともなくくすくすと笑った。
「二人でお昼まで寝ちゃいましょうか」
「フフ……そうですね。たまには、そういうのも悪くない」
 互いの心音と時計が刻む秒針の音を子守唄に、彼らはそっと目蓋をおろした。





2021.01.05



BACK