ここ数日湿っぽい日が続いていたが、今日はからりと晴れていた。中庭のベンチに腰掛けたは、頬を撫でる風に細めた目をそっと閉じた。
 目蓋の裏からでも降り注ぐ陽の光が感じられる。気温から何から全てが心地よく、気を抜けば意識が持っていかれそうだ。
「こんな所で眠っていては風邪を引きますよ」
「……謝必安さん」
 土を踏む小さな音と重なった甘く涼やかな声に、彼女は隠していた瞳をそちらへ向けた。
「謝必安さんもどうですか? なかなか悪くないですよ」
「咎めた相手に聞きますか」
 僅かに苦笑した謝必安が彼女の隣へと腰を下ろす。ぽす、とその身体にが寄りかかると、「あらあら」と笑みを含んだ声が降ってきた。
 流れるような動作で彼女の背に腕を回しその腰を引き寄せてやれば、は倒れ込むようにして謝必安の太腿に頭を乗せた。
「無咎さんの真似~」
 くすくすと笑いながらそんなことを口にする彼女の目の前で、何かを訴えるかのように黒い傘が震える。しかし、ちゅ、と彼女の唇がそれに触れた瞬間に傘はぴくりとも動かなくなった。それを見てまたが楽しげに笑う。
「今日は随分と甘えたさんですね? 何かありました?」
「ううん、何も」
 ゆるやかに髪を梳く細い指の感触に、彼女は瞳をとろけさせた。
 本当に眠ってしまいそうだ、と、体の動きを変えて謝必安の顔を見上げる。下から見ても整っているなあ、などと考えつつ、はいたずらっぽい表情で口を開いた。
「もし風邪を引いたら、二人で看病してくださいね」
 彼女の言葉に二、三度目を瞬かせた謝必安は、眉尻を下げて「仕方がないですね」と笑う。
 謝必安の手がひたりとの頬を包み、愛しむように指先でそこを撫でる。そのまま降って来た唇を受け入れて、彼女は満足そうに口元をゆるめた。





2020.10.18
サイト掲載 2020.11.02



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