「私もルキノさんとお揃いの衣装欲しい!」
 ホワイトサンド精神病院でサバイバーたちと(半ば仕方なく)平和な時間を過ごして戻ってきたルキノを出迎えたのはそんな声だった。
「あァ、今のゲームか……観戦していたんですね」
 拗ねたような表情をしている彼女の頭を軽く撫でる。「これで流そうと思っても無駄ですからね」と言いながらじとりとした視線を向けてくる彼女は、しかしルキノの手に頭を押し付けるようにして言外にもっとしてくれと要求しているようだ。可愛らしい主張をしてくる彼女に控えめな笑い声を漏らし、ルキノはその髪の毛を指で梳いた。

 先程のゲーム、ルキノはマッチング時点で既にやる気が失せていた。何せホワイトサンド精神病院である。普段であれば場所が決定した時点で他のハンターに代わってもらえるよう交渉しに行くのだが、生憎誰も予定が空いていなかったのだ。
 一応真面目にやるかどうするかと考えながら待機場所の椅子に腰掛けたルキノはサバイバーの方を一瞥して目を瞬いた。そこに居たのは占い師、機械技師、納棺師、探鉱者の四人。それだけならば特にどうとも思わなかったが、なんと椅子に座る全員が同じテーマで用意された服を着用していたのだ。
 ステージに合わせるかのように『病院患者』の衣装を纏ったサバイバーたちは和やかに会話をしていた。
「へへ、こういうのもたまにはいいね! ここはあんまり好きじゃないけど!」
「イソップが乗ってくれたのは意外だったなあ」
「……イライさんが強引に着せたようなものじゃないですか……」
「これだけでゲームがうまくいくとは思えないけどね」
 そんな彼らにすっかり毒気を抜かれてしまったルキノは、ひとつ息を吐いてこのゲームは彼らに譲ってやろうと準備完了のスイッチに手をかける。そこではたととあることを思い出し、クローゼットに目を向けた。さすがにそこまで付き合ってやる必要もないだろうとも思ったが、たまにはサバイバーの遊びに乗ってやるのも悪くはないだろう。
 白衣に腕を通して再び椅子へ戻ると、サバイバー側の待機場所にいる占い師と目が合ったような気がした。あちらからはハンターの姿を確認することはできないはずだが、相手はあの占い師だ。もしかしたらこうなることまで全て『視えて』いたのかもしれない。
 穏やかそうに見えてとんだ策士だな、と、ルキノは小さく息を零した。

 そんなこんなで、早々に和解して暗号機を回り、穏やかに終えたのが先刻のゲームである。交代を打診した際「もう少しゲーム開始が遅かったら代われたんですけど……」と申し訳なさそうに言っていた彼女は、おそらくルキノが心配で予定を済ませた後で様子を見に来ていたのだろう。
 その結果が現在目の前で頬を膨らませている彼女なのだが。
「私だってルキノさんとお揃いの服で協力狩りとか行きたいのに。ずるいです」
「そうは言ってもねェ……」
 風船のようになった彼女の頬を軽くつつけば、さした抵抗もなく空気が抜けていく。その様子に小さく喉を鳴らすルキノを、彼女はうらめしげな目で見上げた。
「面白がってる」
「あァ、いや、すみません。そういうわけでは。あまりにもキミが可愛らしいものだから」
「むぐ……」
 するりと頬を指の背で撫でられ、彼女は複雑そうな表情を浮かべている。存外やきもち焼きで、しかし絆されやすい彼女のご機嫌を取るのはルキノには慣れたものだ。
「この前キミが見せてくれた新しい服は私の『赤いウロコ』と揃えたようなデザインでしたね? 今度あれを着て一緒に協力狩りに行きましょうか」
「……! 行きます!」
 ぱっと顔を明るくする彼女にルキノも笑みを浮かべ、またその頭に手を滑らせる。くるくる変わる表情はとても愛らしいが、押し切られやすいのは少し心配なところだ。
 『私以外にはもう少し警戒心を抱いてほしいものだな』などと考えながら、ルキノは彼女の額にそっと唇を落とした。





2020.08.29
サイト掲載 2020.09.20



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